2009年1月1日
新春企画「この人」スペシャル田中優さん・未来バンク事業組合理事長
(たなか・ゆう)1957年東京都江戸川区生まれ、51歳。法政大学卒業後、江戸川区役所を経て、未来バンク事業組合理事長、天然住宅共同代表、天然住宅バンク代表、日本国際ボランティアセンター理事、apbank監事、作家。立教大学、大東文化大学、和光大学の非常勤講師。『地球温暖化』『おカネで世界を変える30の方法』『おカネが変われば世界が変わる』のほか、米国の同時多発テロ直後に発表した坂本龍一氏との共著『非戦』など著書多数。
環境と健康の問題を語る
2009年の幕が開きました。今年は例年にもまして「環境と健康の関係」が注目される年になりそうです。大手ハイテクメーカーと地方自治体による包括的な森林整備が始動、国産材流通と花粉症対策を同時並行的に遂行するという華やかな試みもあれば、脱温暖化投資と経済成長の両立、林業経営意欲の減少、木材価格の低迷、シックハウス症候群、林産物汚染など課題も山積みです。
ここでは新年特別インタビューとして、20年以上前から環境や健康の問題に取り組み、非営利貸金業「未来バンク」理事長や「天然住宅」共同代表、大学講師、作家として活躍している田中優さんに諸問題のいまを聞きました。
――2001年に米国で発生した同時多発テロ直後、音楽家の坂本龍一さんと『非戦』を共著出版されていますね。
坂本さんが事件直後につくったメーリングリストに共通の友人を介して加わり、そのメーリングリストの内容がそのまま本になりました。出版記念で初めてお会いしましたが、その後も交流は続き、最近では、坂本さんが立ち上げた高知の森の手入れに携わる環境団体「モア・トゥリーズ」の呼びかけ人にもなっています。
――昨今、森林整備の重要性が問われています。
それを怠れば、荒れた杉が子孫を残すために花粉を飛ばす。花粉症は人間の免疫の誤作動ですが、その最たるものが科学物質過敏症です。住宅に使われる有害物質によって発症することが多く、電磁波過敏症を誘発することも少なくありません。過敏症にならない環境が大事です。
――化学物質を極力使わず、国産木材で健康的な住まいを建てる中間法人「天然住宅」に共同代表として参画されていますね。
天然住宅とは、最高の住宅をプレハブ住宅並みの価格で提供しようとするものです。国産材100%、健康に有害なものは一切使わない。入手しやすくする方法として、住宅価格を安くする、バンク(金融部門)を入れることで金利を低くする、生活にアドバイスすることで暮らしにゆとりをつくるなどを進めています。
代表理事の相根昭典さんとは数年前、あるシンポジウムでパネラーとしてお会いしたのが始まりです。後日、メールをいただき、相根さんが設計・監理したエコハウスの見学に誘われました。私自身は、20年前から熱帯林破壊の問題で木材のこと、建物のことをずっと気にしていましたが、そこで湧いた疑問を相根さんに尋ねてみたら、ことごとく返事が返ってきたのでびっくりしました。こんな建築家がこの世にいたのかと。
――「天然住宅」は非営利ですね。
人件費は経費だからもらいますが、営利的なことにはあまり興味がありません。それより利益はみんなで共有したいのです。相根さんも同じでしたから、一緒に進めることになりました。
――1994年、「いい社会を子どもたちに残したい」という一念で非営利貸金業「未来バンク」をつくったそうですね。
1980年代後半、チェルノブイリ原発事後による放射能汚染が問題になっていました。因果関係を調べたら、国内外の原発に郵便貯金が使われていた。財政投融資の資金源としての郵便貯金は、ダムや再処理工場、空港、高速道路、リゾートなどありとあらゆる環境破壊の源泉でした。
同じ轍は踏みたくない、お金の使われ方に別の流れをつくりたいと思い、各金融機関に別な資金の流れを作ってほしいとアプローチしましたが、時代が早すぎて誰も理解しなかった。それならと、自分たちでつくったのが未来バンクです。設立総会には、のちにノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌスさんからも祝電が届きました。
金利は年3%の固定、これまでの融資総額は8億円を超えています。業務のほとんどは電子メールの送受信で、維持費は共同事務所の家賃1万円と切手代がほとんどです。
――環境や健康の問題を主体的に解決する人材がNGOに多くなればいいですね。
確かに、国際NGOなどには超一流大学出身者など、優秀な人材が集まりつつあります。しかし、優秀な人は教わったことを受け入れることに優れていても、創造性の高い人は多くない。自発的に調べ、行動する人が大事です。
――今年、新たに始める試みを聞かせください。
講演、大学、執筆の3本柱に変わりはありませんが、新たに「食と環境」をテーマにした制作物に携わります。たとえば、本来、日本酒をつくるときには、上流に杉林があるところが最適だとされてきた。わさびでも同じ。杉林は価値のある、神聖なところだったのです。ところが、その杉林が荒れ、杉が悪者扱いされるようになった。森を失うことで、林産の食品にどんな影響が出てくるでしょうか。昔から「森は貧者の外套(コート)」といいます。元来、人間は森から採れたものをたくさん食べていたはず。その共生関係の魅力を明らかにしたいと思います。