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2008年9月5日

シリーズ「この人」原口泉さん・「篤姫」の時代考証担当

原口泉さん・「篤姫」の時代考証担当
(はらぐち・いずみ)鹿児島大学法文学部教授。NHK大河ドラマ「篤姫」の時代考証を担当。そのほか、時代考証を担当した大河ドラマの過去作品は「翔ぶが如く」「琉球の風」。最近の著書に「龍馬を超えた男 小松帯刀」「篤姫」がある。(写真は、「篤姫」の台本を手にドラマへの熱い思いを話す原口さん)

高視聴率の秘密は「本物を見てもらうこと」

NHK大河ドラマ「篤姫」の視聴率が25%超えを記録するなど高い人気を集めているそうだ。主演の宮崎あおいさんの新鮮さをはじめ松坂慶子さんや堺雅人さんなどしっかりとした演技力のある役者が脇を固めていることがその理由であろうが、歴史ドラマにも関わらずストーリーが親しみやすくわかりやすいという点も世代を問わず支持されているようだ。時代考証を担当しているほか、脚本づくりにも参加し、最近は「龍馬を超えた男 小松帯刀」「篤姫」の2冊の著書も出している鹿児島大学文学部教授の原口泉さんが都内で関係者内で開いた特別講演の中で人気の秘密を語ってくれた。

翔ぶが如く」「琉球の風」に続いてNHK大河ドラマの時代考証を任された原口さんは今回の「篤姫」では、「若い人が見てくれるドラマづくりを心がけた」という。

ドラマの進行は中盤を過ぎたあたりだが、その想いはすでに視聴者に届いているようで、「知人の3、4歳の小さなお孫さんが母親にガミガミ叱られていると神妙に聞いていたあとに、突然、「母上、わかっておる」と言うのを見て、思わず吹き出してしまった」と満面の笑みを浮かべながらうれしそうに原口さんはまずこの話を紹介する。

若い人を意識し、特にこだわったのが「本物を見せること」。
ドラマをご覧になっている方はご存じだと思うが、江戸城の大奥を舞台に毎回のように豪華絢爛な衣装に身を包んだ女性たちが次々と登場する。 源氏物語を意識し「平成の源氏物語」を描き出そうとの思いを込める原口さんが「特に若い人たちに見てほしかったのがこの「着物」である。

実際、「篤姫」でもっとも制作費のかかっているのは「着物」であるそうだ。

ハイヴィジョン放送の時代となり、本物と偽物の違いはブラウンカンを通じて視聴者に分かってしまう。 実際、ハイビジョン放送前と放送後の備品道具類の在り方は激変し、「本物の時代」の幕が開けたという。 「今の子は礼節を知らないというが、見る機会がなかなかないためでしょう」との思いを以前から持っていて、着物の世界の立ち居振る舞い、お辞儀の仕方など細かな点にもこだわりを持ったドラマづくりが行われている。

孝明天皇が笙(しょう)を吹くシーンがあるが、これも本物を用意した。「細部に神が宿る。すぐには何か伝わらなくてもこのことを大事にしています」。

ドラマづくりで心がけたもうひとつが「低い目線でつくること」。中央の華やかな世界の物語ばかりではなく地方の視点を盛り込みたいと考えた。この思いから生まれたのが薩摩 (鹿児島)での小松帯刀の登場である。

「不安の中で薩摩を出て、江戸で活躍する篤姫の物語の大切な柱のひとつには家族の大切さ、親子の絆(きずな)がある」と語る原口さんがあえて紹介したシーンは観ている者の間では強いインパクトを残したことでよく取り上げられるこのシーンだった。 藩主の島津斉彬に寵愛された西郷隆盛ばかりに華やかなスポットが当てられ、同じ地で共に育った大久保利通の心中には複雑な思いがある。そんなある日、ようやく肥後(熊本)で重要な話し合いがあり、西郷に同行できることになったが、席上、肥後の家老・長岡監物から内密の話があるので席をはずすよう大久保は言い渡される。 奥歯をかみしめ、こぶしを固く握りしめて、帰路に就き、我が家に就いた大久保は母親にこう語りかける。

「母上、私は鬼になります」

これに対して母はこう答える。

「正助(しょうすけ)、私は鬼の母になるだけです」。

全幅の信頼を息子に寄せるこうしたシーンなどを通じて、「家族や親子、仲間とのつながりの大切さを幅広い世代の人々に送っていきたい」「これからの展開も楽しみにしてください」と原口さんは笑顔で抱負を語った。