2008年6月25日
シリーズ「この人」近藤恵里さん・女流木登り家
(こんどうえりさん)東京都中野区生まれ。武蔵野美術短期大学卒。 現在、NPO法人ツリーマスタークライミングアカデミー・クラブマザーツリー 代表。森林インストラクター、森林・林業関連のノンフィクションライター
「木は生きることをあきらめない」
「木は光を求めて迷うことなく上に向かって伸びていく。そんな木の生命力を不登校の子どもたちは敏感に感じるのでしょう」。
NPO法人ツリーマスタークライミングアカデミー(加納正信代表)のチーフインストラクターとして、不登校の子どもたちにツリーイング(木登り)の指導をしている。 ツリーイングとは、ロープと専用の道具を使って安全に森や自然を楽しむ木登りのこと。もともとは、アーボリスト(樹芸家)が樹上作業を行うために開発した技術だが、後に、多くの人々により安全に木登りができるようにと体系化されてきた。
安全なツリーイングによって、鳥と同じ視線で森を眺めることもできれば、木から木へロープで移動することも、専用のハンモック(ツリーモック)で樹上キャンプをすることも可能になる。また、両手が自由に使えることから、高所作業にも活用されている。
「ツリーイングは森への入り口であり、きっかけの一つ。ツリーイングを通して、木や森や自然に触れ、地球環境へと興味が広がってくれれば」
結婚後、好きだった八ヶ岳(山梨県)に山荘を持った。八ヶ岳の大自然の中で何かできないかと森林インストラクター資格に挑戦、3年目でようやく取得した。その間、苦手科目の林業を克服するために森林ボランティア活動に従事。「もがいていた時期の経験によって林業の必要性がわかり、その理解の輪を広げていくことが社会貢献につながる」と考えるようになった。八ヶ岳に森を借り、東京の知人家族を集めては、間伐、枝打ち、炭焼きなどを行った。皆で伐った丸太に腰を掛け、夜は焚き火を囲み、朝は間近に鳥の声を聞いた。都市部の人たちにとってそれは、新鮮で得難い経験であり、森への関心につながるきっかけとなることがわかった。
その後、森林ボランティアの仲間から「林業に役立つ素晴らしい技術」という話を聞いてツリーイングと出会い、インストラクター資格を取得。現在は、東洋大学工学部でツリーイングを取り入れた授業を指導するほか、群馬県立勢多農林高等学校でジュニアツリーイングクライマーの講座を行っている。
今後は、ユニバーサル・ツリーイングを充実させていきたい。「登りたいと願うすべての人に樹上の楽しみを味わって欲しい」。ろうあ者に登り方をどう伝えたらいいか、手話を学ぶなど現在検討している。
「木に恋したら変ですか?」。天を突くように伸びてゆくポプラを、窓から眺めながら中学の担任にそうつぶやいた感性は、美術大学進学、デザイン会社勤務を経て、やがて林業、そして木登りへと興味を抱かせた。「おばあさんになっても森の中で木に登っていたい」。迷うことなく最高齢女流木登り家をめざしている。