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2008年4月5日

シリーズ「この人」藤野珠枝さん・「森の人」になった建築家

藤野珠枝さん
座右の銘は「1つ終わり、また1つ始まる」

木材使用量3760立法メートル 伐採現場に足を運び出所の確認をする
建築と林材と市民をつないで「山を動かす」

地響きとともに倒された木を見た車イスのお子さんが「頑張っている木が学校になるのだから僕も頑張る」といった言葉が忘れられない。学校に使われるカラマツの伐採現場を見に行った時のことだ。

平成19年4月から新校舎で全面開校した長野県稲荷山養護学校(長野県千曲市、韮澤久人校長)。既存校舎の増改築となる同学校建設工事は平成14年の秋、「木をできるだけたくさん使った建物にしよう」との趣旨で設計者を公募、受注した(株)北川原温建築都市研究所(東京都渋谷区、北川原温主宰)の設計室長としてプロジェクトに携わった。応募案で提案した「出所の確実な長野県産材を使う」ことを前提に、「まちのような学校をつくる」というコンセプトを掲げて設計を進めた。建物規模は、2階建て、延床面積1万4500平方メートル。構造は、鉄筋コンクリート造と木質構造の混構造。木材使用量は3760立方メートル(使用木材2万8000本、間伐面積250ヘクタール換算)。これは長野県の平均的な住宅の面積で100棟分、木材量で135棟分に相当する。

一般に工期とコストが第一義の公共工事で地域産の材を使うことは困難だが、同プロジェクトでは長野県産材を用いて公共建築をつくることにこだわった。
地産地消が進み、社会環境整備が進めば、環型社会の構築につながると考えたからだ。

長野県の森林の特徴は、民有林における針葉樹蓄積のうち約半数がカラマツとなっており、他県と比べてカラマツの占める割合が非常に大きいこと。一方で、カラマツはらせん状に繊維が形成されることから、乾燥収縮に伴いねじれが出やすく、構造材として不向きとされてきた。仕上材としてのカラマツの利用はすでに一般的に行われていたが、針葉樹の建材利用では、いかに無垢の構造材として活用するかが重要であると考えた。「ヤニ、割れ、ねじれで使えない」と誰もが思い込んでいるカラマツ材を目に見える形で使って、「長野県のカラマツはこのように使えるものなのか」「家をつくるときに使ってみようか」となることを目指した。市民が郷里の木を誇らしく思い、さらには全国でもどんどん使ってもらうことが大きな目標になった。結果、すべての「構造材と補足材」に、大部分の「仕上材と造作材」に、一部の「構造用合板」に長野県産材を用いた。材となる木の伐採現場にも足を運び、出所の知れた材(トレーサビリティ)の確認を行った。「この学校は、あの山の木でつくったんだよ」と、建築と山をつなげて見てもらえることを願いながら。

長野県に生まれ、大学で建築学を学び、以降東京在住。今から10数年前、実家の山の木が台風の影響でなぎ倒され大きな穴が開いた。その跡の植樹や実家の他の山の間伐を森林組合が施業するものの、その有様は「山がきれいになったとは思えなかった。よけい荒れたように見えた」。親の反対を押し切り組合に抗議するが「あれでいいんだ」といわれ「解せなかった」。これを機に林業を学び、実家の山の手入れを始める。KOA森林塾(長野県伊那市)では山の手入れのイロハを、東京大学農学部森林科学科では研究生として森林分野を学修、「新しい扉を次々と開けるような楽しさや面白さを実感した」。長野県での仕事では林業総合センター(長野県塩尻市)に材としての木のことを教えてもらった。今は「その後のカラマツ材を検証したい」。製材となるべき丸太がどんどん合板工場に運ばれているとの噂に「正しく使って欲しい!」と気をもむ。

「森と木と水と建築と環境と市民をつなぐ」ことを人生の目標に、建築設計・監理を本業として、在住地域のまちづくり活動、森林インストラクター活動、環境カウンセラー活動、母校東洋大学工学部・非常勤講師(講義名「建築と森と木と環境を考える」)などに奮闘中。

「より多くの普通の市民が、自分のことと共に社会的財産である森林のこと、林業のことを考えるようになったら、大きく何かが変わってくるのではないか。建築と森林・林業と市民。これらをつないで『山を動かす』。そんな夢をもって、ためらわずに行動を起こす一市民でありたい」

プロフィール

(ふじの・たまえ)長野県生まれ。東洋大学工学部建築学科卒。現在、(株)北川原温建築都市研究所・設計室長(4月から非常勤)、藤野アトリエ一級建築士事務所・主宰(東京都港区)、一級建築士、森林インストラクター、環境カウンセラー、東洋大学非常勤講師。